世界のお気にいり(19)

Facebookが消費者と企業、国民と行政をつなぐミャンマー

消費者視点を切り口に、海外のライフスタイル、マーケティング事情をお届けする「世界のお気にいり」。民主化したミャンマーでは、外資系企業の進出が加速。マーケティングをはじめ、行政と国民がコミュニケーションをする軸となるのは「Facebook」です。

Facebookを通して消費者とコミュニケーション

ミャンマーが軍政から民主化へと政策を転換したのは2013年。これ以降、外資系企業の進出が加速し、広告やマーケティングの業界も急速に近代化しました。しかし、いまだ顧客の声を吸い上げて商品やサービスの改善に取り組むといった姿勢は、あまり目立っていないのが現状です。

食品会社がスーパーマーケット前広場で開いたイベント。こうした場で、消費者の意見を吸い上げることも。
食品会社がスーパーマーケット前広場で開いたイベント。こうした場で、消費者の意見を吸い上げることも。

とはいえ、商品サンプルの配布や試食を通じて感想を集める、という方法は時々見かけます。先日通りかかった繁華街のスーパーマーケットでは、若い女性に化粧品サンプルを配り、受け取った人に電話番号をきくという方式をとっていました。後から電話して使い心地をきくそうですが、若い女性が見知らぬ人に簡単に電話番号を教えるなんて、とちょっとびっくりしました。
最近ではFacebookに商品やサービスのページを開き、感想を書き込んでもらう、という方法も、SNS好きなミャンマーでは一般的になっています。

食品会社の試食カー。この会社もFacebookページで、消費者が感想を投稿できるようにしている。
食品会社の試食カー。この会社もFacebookページで、消費者が感想を投稿できるようにしている。

ミャンマーはボランティア好き!その理由は?

そんなミャンマーで、先日、サービスを提供する側と提供される側のフィードバックが、比較的機能した出来事がありました。ミャンマーの最大都市ヤンゴンのバス路線改定です。
ヤンゴン市内は、バイクの乗り入れ禁止、自転車も大通りのほとんどで走行禁止、鉄道は街の周囲をぐるりと回る1路線のみ。そのため、ほとんどの庶民の足は路線バスです。
ヤンゴンの路線バスはこれまで、それはそれは悪評高いものでした。ほとんどが個人経営に近い運営だったため、路線の統合はとれず、同じ番号で終着点も経由地もまったく異なる路線がいくつもあったり、同じ路線を複数の番号のバスが走っていたりは当たり前。
運転手や車掌の賃金が歩合制のため、少しでも早く往復しようと、渋滞する道で反対車線を爆走する、無理な追い越しをする、停留所以外の場所で乗客に乗り降りを促すなどやりたい放題でした。無数にあるバス会社は組織立っておらず、交通局も指導を行き渡らせることができずにいたのです。

ヤンゴンの路線バスの多くは、日本各地の路線バスが再利用されている。
ヤンゴンの路線バスの多くは、日本各地の路線バスが再利用されている。

今回の改定で、路線を統廃合して61路線にし、乗務員はバス会社の従業員として給料制へ。さらにバス会社を8社に統合して、交通局の統制下に置きました。しかし、大幅な改定により多くのヤンゴン市民が、バス停で路頭に迷うことが予測されます。そこで、交通局はあるキャンペーンを行いました。
ここからは、ミャンマー独特のやり方になります。交通局はバス路線改定の1ヶ月ほど前から、市民に広くボランティアを募りました。実はミャンマーは、ボランティア指数の国別ランキングで、並み居る経済大国を押さえて2年連続で1位に輝くほどのボランティア好きな国民です。前世で積んだ徳の量が来世を決めるという輪廻転生思想が浸透しているのです。そのため、市民の多くは普段からボランティア活動にとても馴染んでいます。

路線案内をしながらアンケートを呼びかけるボランティアたち(写真:ボランティアグループ提供)
路線案内をしながらアンケートを呼びかけるボランティアたち(写真:ボランティアグループ提供)

今回も、呼びかけに応じたボランティアは総勢4000人。前もって交通局から新しい路線図とアンケート用紙を受け取り、バス路線改定の日に指定された停留所で早朝から路線の案内を行いました。また、新システムについてのアンケート調査も同時に実施しています。
アンケートの内容は以下のようなものでした。

  • 前より乗りやすくなりましたか?
  • 前より待ち時間が長くなりましたか?
  • 車掌の言動はいかがですか?
  • 運賃が前よりかかるようになりましたか?
  • 運転手の運転は良くなりましたか?

ちょっと驚くのは、これらアンケート用紙には、ボランティアたちの携帯電話番号が印刷されていることです。数日たって交通局やバス会社への要望が出てきたら、ボランティアに電話してね、というわけです。電話を受けたボランティアは、それらをとりまとめて交通局へ報告します。個人情報の保護といった概念自体、そもそもない国ですが、行政がここまでボランティアの善意に頼るのには驚きです。

Facebookを使って、意見や苦情をフィードバック→改善へ

また、交通局は、市民が意見や苦情を寄せることのできるページをFacebookに設けています。

誰でも意見を書き込める交通局のFacebookページ。軍政時代には考えられなかった方法だ。
誰でも意見を書き込める交通局のFacebookページ。軍政時代には考えられなかった方法だ。

ちょっとのぞいてみるとこんな要望が。

interviewee

カーナンバーXXXXのバスに17:30に乗りましたが、終点まで行かずに降ろされました。


interviewee

■■行きのバスに乗りましたが、運転手がクラクションを鳴らし過ぎです。


interviewee

■■通りで、公式ステッカーがない小型バスが勝手に運行していました。

ボランティアが集めたアンケートやFacebookの意見をまとめ、統合されたばかりのバス会社8社は、最終バスが出たあとの夜9時から毎晩会合を開き、改善策を話し合ったそうです。こうして、バス改定からわずか10日ほどの間に、10路線ほどが追加となりました。

今回の“キャンペーン”を振り返ってみて思うのは、ミャンマーの良いいい加減さです。日本に比べ、ボランティア頼み・個人情報も気にしないという大雑把なところはありますが、Facebookを活用し、市民の声をフレキシブルに取り入れて路線を増やすなど良い方向に進んでいます。
料金制度など、まだ大きく改定していかねばならない問題は山積みですが、現在のところ、街は平穏を取り戻し、市民たちは新しいバス路線に慣れたようです。