[スペシャリストに聞く]株式会社デジタルインテリジェンス・横山隆治氏

マーケターの経験と勘をデータが支える

横山隆治氏

ビジネスシーンにおいてデータはどのように活用すべきなのか。さまざまな業界のスペシャリストにお話を伺うインタビューシリーズ。第一弾は株式会社デジタルインテリジェンス代表取締役の横山隆治氏です。日本のインターネット広告・デジタルマーケティングの第一人者でもある横山氏が見るデータとはどのようなものなのでしょうか? 全2回。今回は、マーケティングの世界でデータはどのように活用されててきたのかについて伺いました。

データマーケティングを実現しようとする組織や人材の再現性に価値がある。

─── 早速ですが、マーケティング領域においてデータ分析は活用できるのでしょうか?
活用できないといけないんでしょうね。逆に言うと、活用できるかどうかなんて、それを疑問視してもなにも始まりません。属人的なスキルをどのように再現するかが重要で、データマーケティングを実現するために、スキルやビジネスロジックを組み立て直す必要があります。データによってマーケティングできるということを信じるしかないんですよね。組織や人材の再現性には絶対に価値がありますし、そのプロセスで得られるものは今までと全く違ってくるはずです。それを信じないのは全くナンセンスで、疑ったとところでなんの価値にもならないと思います。

 
─── データを活用しないことで起こりうる問題は?
一番の問題は、経験と勘だけでもうまくいってる感じがすることです。きっとその感覚は間違っていなくて、そんなに外れてもいないんです。でも100%当たっているわけではない。そのズレは小さいので、感覚的には分かりません。その小さなズレを繰り返してると、どんどん外れていき、いずれは自分がどこにいるの分からなくなってしまいます。例えば、目を瞑ってジャンプし続けたとします。自分では真っすぐ飛んでいるつもりでも、気づいたら部屋の隅にいることありますよね。あれと似たようなことです。感覚だけでやっているので、それは計器を持たないでフライトするようなもの。

一番最初の方向性を決める時点では経験や勘が必要ですし、そのスキルはとても大切です。正しいかどうかも分からないデータを取り出してきても、確からしいポジショニングはできません。でも、そこが本当に芯に当たっているかどうかは常にデータを取らないと分かりません。データを見れば自分の感覚と現実の差を見ることができます。

 
─── たまたま1回のフライトはうまくいくかもしれないけど、何回も成功するのは無理。マーケティング領域でも言えることでしょうか?
そういう感覚で捉えていますよね、昔を知ってるだけに。

昔は意外と断続的な成果を上げることができればいい時代でした。でも情報が溢れている今は、2〜3年にひとつ当たればいいということはあり得ません。当たった直後はいいけれど、その減衰たるや著しい。ものすごく大きな成果は得られなくても良くて、どのくらい長く継続させることができるかが大切になってきました。それには今どこを飛んでいて、どこに向かっているのかを知らないといけません。

自分がどっちに行くかを決めるためにデータはあります。そのためにも、考え方やスキル、組織としての在り方を変えることが重要で、もしかしたらデータで成果がどこまで出るかというのは、そんなに重要ではないのかもしれません。連続的な飛行をするために、体制や考え方を変えるというところにデータは絶対に必要ですから。

 
─── マーケティングが断続的なものから連続的なものに変わってきていたのは、なぜでしょうか?
消費者の意識が変わってきたのが一番だと思います。昔に比べて、圧倒的に情報量が違います。その結果、“琴線に触れる何か”が多様性を帯びてきているので、そこを観測しないでマーケティング活動を行うのはできなくなってきていると思います。だからこそ、連続したマーケティングをしないと、最終的に効果が生まれなくなってしまいます。

横山隆治氏

昔から行動記録が分かったらいいなという想いはあった。

─── データの必要性を感じたきっかけはどんなことだったのでしょうか?
30年近く前に広告代理店でマス広告をやっていたことがあって、そのころからデータの必要性は感じていました。今のようなデジタルの全数データを取れるわけではありませんでしたが、パネル調査をしたり、インタビューを実施したりするうちにいろいろと見えてくるものがあったんです。

例えば、グループインタビューは大抵6人くらいで実施することが多いのですが、意見をリードする人が必ずいます。そして、その意見に合わせてしまう人もいます。また日本人は優しいというか、調べている側に見られているのは分かっているので、良い答えにしてあげようという変な意識が働いたりするようです。その結果、思うような結果が得られないことがありました。

また、実は意識と行動は違うことは往々にしてあります。昔、ヨーロッパの陶器を評価してもらう機会がありました。好きなデザインを選んでもらって、最後に「お好きなものをお持ち帰りください」と言ったんです。もちろん全員「これが良い」と言った陶器を持って帰ると思ったのですが、実際は普通の丸皿を持って帰りました。この時、消費者の声を聞けたからって、実際には全然違う行動を取る可能性があるということに気づかされました。

そういう経験があったので、昔から行動記録が分かればいいなという想いはありました。

 
─── 行動ログが取れなかった時代にはどのように仮説設計をしていたのですか?
昔は経験と勘で仮説を設計していました。そこにどういう琴線があるのかは経験値で判断していました。それはそれで確立されたノウハウがあって、いまでも全然通用するとは思います。しかし今は、ちゃんと仮説立てしないでデータの大海原に飛び込んでいっても、なかなか文脈の発見ができません。仮説を立てて検証してくほうが発見できる確率は高いですよね。

先輩方の培ってきたノウハウをもとにデータと向き合い仮説立てすることが、若いマーケッターが新しい時代に生き残れるかどうかの試金石になると思います。

 
─── 経験や勘の確からしさを立証するためにデータを活用するということですね。
そういう意味では、昔は定性的なデータをさまざまな角度から見て、コンセプトやキーワードを出していました。それもひとつのデータの世界なんです。

あまり大量のデータではないのですが、以前300人に対して自由記述アンケートを実施したことがあって、それに多変量解析を行ったことがありました。言葉と言葉の関係性をみると、300人の頭の中を俯瞰できるデータができあがって、それがすごく画期的でした。一人ひとりにインタビューしないと分からないこともありますが、それは一人ひとりの意見でしかありません。それがどういうセグメントなのかをマーケッターが再構成しないといけません。しかし、テキストを多変量解析すると、300人分の頭の中がどうなっているのか俯瞰するひとつのデータができました。一人ひとりのなかにある琴線を探るためのデータと、300人を俯瞰を俯瞰して捉えることのできるデータをそれぞれ見るというのは、すごいステップでした。

 
─── その後は、どのようにデータは扱われるようになっていったのでしょうか?
これは日本で初めてだったと思うのですが、リターゲティングの拡張実験というのをやったことがありました。まさに今のリターゲティング広告なのですが、あるウェブサイトに訪問履歴のあるCookieと、その周辺にいる訪問履歴は無いけれど似ているCookieに対して同じコミュニケーションを配信すると効果がどう出るを実験しました。そのときは結果的にまだまだ有効な成果は得られなかったのですが、そういうコミュニケーションとマーケティングのなかでのデータ活用という文脈が何段階かで広がっていく時期がありました。

株式会社デジタルインテリジェンス代表取締役の横山隆治氏へのインタビュー。次回は、マス広告におけるデータの活用について、そして今後の展望について伺います。

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