人気アプリ「ボケて」プロデューサー・イセオサム氏が語るマーケティングの成功と失敗

成功しているときこそ、客観的に物事を見極める<前編>

マーケティングとは、成功と失敗を繰り返しながらナリッジを蓄積していくことで、自分自身のポリシーや勝利の方程式を生み出していく作業だと言えるのではないでしょうか。そこで、サイカでは様々なマーケターに自身の成功体験や失敗談、マーケティングに対するポリシーなどを伺い、これからのマーケティングに求められるエッセンスを提供していきたいと思います。

リレー式でお届けする、マーケターインタビュー。第2回は、吉沢康弘さんからご紹介いただいたイセオサムさんにお話を伺います。人気大喜利アプリ「ボケて」をはじめ数多くのスマートフォン向けメディア・サービスを世に送り出し大ヒットさせてきた、株式会社オモロキ取締役のイセオサムさん。イセさんのこれまでの経験の中で、成功・失敗からどのような気付きを得ることができたのでしょうか。

成功しているときこそ、客観的に物事を見極める-01
釣りがご趣味だという株式会社オモロキ取締役のイセオサムさん

メディア×マーケティングで新たなヒットコンテンツを世の中に届ける

サイカ:

まずは、これまでどのようなお仕事に従事されてきたのかマーケティングのご経験について教えてください。「bokete」の立ち上げをはじめ多彩なご経歴と伺っています。

イセ氏:

ホント謎ですよね(笑)。実は、「マーケティング」という言葉は、大学を出るまで知らなかったくらいで、最初はあまりよく分かっていませんでした。ただ、元々私は釣りが好きで高校のときはルアーを手作りして売ったり、高校のときにはバンドをして大学でも演劇をやっていたので公演のチケットを自分で売ったりして、そんな経験から「人にモノの価値を理解してもらう」「人に自分たちのことを見に来てもらう」という作業は、10代のころからずっとやっていたのかなと思っています。

もともと私は何かを媒介にして人々に情報を運ぶ「メディア」が大好きで、それが私の活動のベースにあります。コンテンツを多くの人に届けるためにマーケティングをするという観点で、これまで様々なマーケティング活動をしてきたのです。最初に就職したテレビ局では情報番組の制作などに携わっていたのですが、限られたプレイヤーで視聴者を獲りあうという構図に拡がりを感じることができず1年ほどで退職してしまったのですが、その後ネット広告代理店でインターネットビジネスの基礎を学び、新規ビジネスの開発などを行ってきました。

そして、退職後の2008年には株式会社ハロを創業し、モバイルに特化したネット広告代理事業やアドネットワークの開発などを行い、その後やはりメディア事業に進出したかったので、海外のモバイルメディア「アドラッテ」をローカライズして日本に導入するなどして事業をメディアにシフトしていきました。最初は広告主のマーケティングを支援してきたのですが、自分自身がメディア事業を進めるにあたって徐々に自分たちのマーケティングをしていく方向にシフトしていった形です。現在は4つの会社に携わっているのですが、「ボケて」をはじめモバイルアプリを数本ヒットさせたほか、バイラルメディアにも注目して「ViRATES(バイレーツ)」をはじめとしていくつかの事業を立ち上げに関わってきました。いくつかの事業は既に譲渡していますが、「ボケて」など好きなサービスは現在でも運営に携わっています。メディアを立ち上げる際のマーケティングが好きで、いくつもの実験的な取り組みをこれまで続けてきましたね。

成功しているときこそ、客観的に物事を見極める-02

“製品にマーケティングを内包させる”ことで生まれた成功

サイカ:

これまでのマーケティングで「これはうまくいった」と言えたエピソードをお聞かせください。

イセ氏:

私にとってマーケティングとは、“タイミング”と“調律”でしかないと思っています。「いいタイミングで、良いものを、マーケットに合わせて出す」という作業ですね。DropboxやAirBnBなどのプロダクトマーケティングにおいては、“製品にマーケティングを内包させる”という考えがありますが、私もこうした考え方を実践してきたのです。韓国からローカライズして日本に導入したスマートフォン向けポイントメディア「アドラッテ」は、その成功例のひとつだと言えるのではないでしょうか。

広告や動画を閲覧するとリワード(報酬)が貰えるポイントサイトは、PC向けには昔から多く存在したのですが、スマートフォン向けには当時あまりなく、当時韓国で人気が出ていた「アドラッテ」に注目していました。PC向けのポイントサイトは主婦などを中心に利用されていましたが、これをスマートフォン向けに展開すれば、きっと学生などに人気が出るのではないかと。そこで「アドラッテ」を日本に持ってきて、日本でサービスを開始してから約半年で100万ダウンロードという垂直立ち上げに成功しました。

この垂直立ち上げに成功した要因としては、Dropboxなどのマーケティング思想にも見られる「広告費を投入するのであれば、そのコストをユーザーに還元する」という考え方があります。広告でユーザーを獲得するのではなく、ユーザーが他のユーザーを招待することでリワードを提供すれば、広告原資はポイントという形でユーザーに還元することができ、また招待によって参加したユーザーは高い稼働率が期待できるわけです。

こうしたリファラルの仕組みを限界まで追求してみようと力を入れたら、AppStoreだけでなく、TwitterやYoutubeまで書き込みが派生し、ダウンロードランキング1位まで駆け上がっていきました。当時、アプリの招待に対してリワードを提供するというのは、Dropboxなどが行っていましたが、まだ出始めの頃だったのではないでしょうか。こうした人気に火を着けるところまでは色々な試行錯誤をしてきましたが、一度火が着いたらバイラルで一気に拡がっていきましたね。

ただ、バイラルで拡がっていく中で他社のアプリレビューにまでアドラッテのことが書かれることになってしまったので、ご迷惑をお掛けした他のアプリ事業者に謝罪にいったり、またバイラルではユーザーの突発的な増加を読み切ることができないため、増加するユーザーにサーバーが追い付かないということもありました。成功の裏で色々と課題もありましたね。

広告代理店に依存したことによるビジネスの失敗

サイカ:

一方で、ご自身で「これは失敗だった」と言えるマーケティングについて教えてください。

イセ氏:

実は、この「アドラッテ」はユーザーの獲得には成功しましたが、BtoBのビジネスという点では必ずしも成功したとは言えなかったのではないかと思います。「アドラッテ」でユーザーにポイントを還元するためには、その原資を提供してくれる広告主が必要なのですが、当時私たちはBtoBのプッシュ営業があまり得意ではなかったので広告代理店に任せていたのです。そこでひとつ失敗があったと言えると思います。

当時、広告の営業は5社程度に任せて売れ行きは好調でした。代理店向けには毎週メールマガジンを配信するなどしてリテンションを行い、代理店の売上に対してリワードなども提供して代理店同士を競わせることで営業活動を強化していったのです。ただ、代理店の中には自分自身でプロダクトの開発も行うことが出来る企業もあり、ある代理店が「アドラッテ」と全く類似したサービスを生み出してきました。当然、広告代理で手数料を儲けるよりも、自分たちでプロダクトを作って売ったほうが儲かるわけですね。

そのとき、私たちは広告主に対して直接営業ができる接点を持っていなかったので、代理店が自分たちの商材を売り始めたら、私たちにチャンスはなくなってしまう。それによって、広告主が減りユーザーに還元できる機会も減ってしまったということがあります。これがBtoBのマーケティングにおける失敗と言えるのではないかと思います。

成功しているときこそ、客観的に物事を見極める-03

サイカ:

広告代理店に任せるという判断が失敗だったということでしょうか。

イセ氏:

当初は広告主、広告代理店、僕らのメディア、ユーザーが幸せになるのがよい事業だと考えていました。しかし、いま考えると、広告代理店に販売を任せる上でのリスクヘッジが出来ていなかったのではないかと思います。「もしかしたらこのビジネスモデルは真似されるかもしれない」と予見が十分に出来ていれば、その代理店は排除すべきですよね。結果的に、直接広告主との接点を持っている企業にビジネスモデルを真似されると勝ち目はない。それに当時は気が付くことができなかったと言えると思います。加えて、簡単に真似されるようなプロダクトはやめようという気づきも得られました。

ものごとが上手く進んでいるときは、実は課題に気が付くことができないことが多い。例えばこの広告営業も、代理店営業だけでなく直販営業もアドネットワークなども選択肢にはあったわけです。しかしサービスは十分に成功していたので、そこでリスクを考えずに調子に乗って強気な判断をしてしまったのです。現在では、意識して慎重に状況判断をするようにはしていますね。

マーケターは、ともすると「自分の思い通りにものごとを成功させることができる」と全能の力を持ったように勘違いしてしまいがちですが、先々を見通すと必ずどこかでミスをするわけです。たとえいま成功している事業であっても、その1年後、3年後にプロダクトが存続しているか、世の中のニーズに応えているかなど少し先の世界を想像して、逆算して今の状況を客観的に判断することが大事だと思っています。

サイカ:

反省を踏まえると、現在は「簡単に真似されるようなプロダクトを作らない」という思いが強くあるのですね。

イセ氏:

そうですね。この失敗から学んだことは2つあって、ひとつは「簡単に真似されるようなプロダクトを作らない」ということ、そしてもうひとつは「誰にも知られないように事業を進める」ということですね。例えば、「アドラッテ」ではダウンロード数が大台を突破したりユーザー数が拡大した際には盛大にリリースを打っていたのですが、それは広告代理店のリテンションには役立つ一方で、敵(競合企業)を増やす結果にもなってしまいます。目立ち過ぎないように事業を拡大させるというのが実は大事だということです。

企業がPRを行う理由には認知の向上やステークホルダーへのアピールなど様々なものがあると思いますが、PR(=情報公開)をするということは同時に競合企業を生み出すきっかけになるのではないかと思うのです。先行者メリットを活かして逃げきれる事業ではない限り、ビジネスは目立たないように成長させるべきではないでしょうか。簡単に開発できて儲かるビジネスならば誰もが手を出したくなるので、誰にも真似のできない独自性のある事業を生み出すのが一番だと思いますね。

<後編に続く>