スペシャリストに聞く:データサイエンティスト・原田博植氏

マーケティングがうまくいかない理由、組織に問題があるかもしれません

データサイエンティスト・オブ・ザイヤー2015に選ばれた、アナリストの原田博植さん。2016年3月よりサイカの顧問としても活躍中(http://xica.net/magellan/news/eugkt90z/)の原田さんは、現場を知るデータサイエンティストです。これからのマーケターや企業は、どのようにデータ分析と向き合えばよいのでしょうか。サイカCEO・平尾喜昭が対談しました。

データサイエンティスト・オブ・ザイヤー2015に選ばれた、アナリストの原田博植さん。2016年3月よりサイカの顧問としても活躍中(http://xica.net/magellan/news/eugkt90z/)の原田さんは、現場を知るデータサイエンティストです。これからのマーケターや企業は、どのようにデータ分析と向き合えばよいのでしょうか。サイカCEO・平尾喜昭が対談しました。

マーケティングがうまくいかない理由、組織に問題があるかもしれません

データ分析が進まないのは、マーケ部の組織体制にある

平尾:

矢野経済研究所の調査(http://www.yano.co.jp/press/press.php/001549)では、9割を超えるマーケターがデータの分析・活用が重要と答えています。一方で、総合的な分析はこれから取り組みたい、目標レベルであるという結果がでています。この差は、どのような理由があると思われますか。

原田:

テレビや新聞などのマスの広告とデジタルの広告の予算が別になっている、それを扱う部署も分かれているという背景があると思います。

平尾:

組織の建てつけに問題がある?

原田:

良い悪いではなく、デジタルマーケの成長の早さに組織作りが間に合わず、部署が別のまま来てしまったということでしょう。オフライン広告やマスマーケというのは、中長期的なプロモーションやパブリシティによりブランディングの形成を担っています。対して、オンライン広告・デジタルマーケは、1週間。長くても3ヶ月単位で結果を求められがちです。将来のためのブランディングアドの効果とオンラインアドの持つ短期的効果の視点が競合しているわけです。

平尾:

マスとデジタルで、KPIが違ってくる。そうなると、大切に思っている価値観もバラバラになり、組織に溝ができる。結果、マーケティングの統合分析を阻んでいるということですね。

原田:

わかりやすく、メールマガジンの課題を例にしましょう。メルマガの開封率が下がると、施策として配信数を増やすことがあります。仮に開封率が上がったとしても、配信数が増えたことにより、ユーザーにネガティブな反応があるかもしれません。しかし、ブランディングを損ねてしまうかも、施策としてどうだろうか?ということが、組織の連携が軽んじられているケースだと議論にのぼらない事があるのです。事業体としての俯瞰した観点を損なうと、そこまで部署同士の溝が深まってしまうという難しさがあります。

平尾:

データ分析の前に、組織の整備が必要であると。施策それぞれを判断するのではなく、すべてのプロモーションを統合して分析する。企業にとって何がベストかの視点で決断する部署や人材を置くことが求められてきますね。

原田:

広告出稿とパブリシティの部署が違うことも、難しいところだなと思います。マーケティング活動とは、パブリシティも、アドバタイジングも、CRMも全て含んでいるものですから。マーケティングの本質を捉えるためにも、あらゆるデータを統合して分析することは必要です。平尾さんは、マーケティングの本質をどんなことだと考えますか?

平尾:

商品が持つメッセージを体験して認知を広げるというブランディングも含め、自ら働きかけて市場を動かすことがマーケティングだと考えています。

原田:

おっしゃる通りです。もっと一言でいうと、マーケティングの本質は需要と供給です。買い手と売り手のポテンシャルとして需要と供給が合っていたら、市場が加速しますし、底堅く売れますね。

平尾:

つまり、マーケターの仕事とは需要と供給を設計することでしょうか?

原田:

たとえば、自動車は憧れを持たせるマーケティングをしています。「豊かな生活」という需要を仕込むことで長期的な供給を設計しようとしている。一方で、シャンプーなどの日用消費材は純粋な想起を軸としたマーケティングが発達しています。需要と供給は、感情で動くことが大きいと私は考えていて、長期的に検討する買い物と、短期的に検討する買い物とでコミュニケーションを投げ分けながら、適切に感情に訴えかけていく。その上で、需要と供給を合わせることがマーケターには求められるのです。

平尾:

やみくもに需要を作り、供給が間に合わないと消費者にとってはネガティブになってしまうし、供給が多過ぎると企業側はロスになる。需要と供給が合っているときが、物はあまらないし、欲しいだけ買われているし、価格も適切である状態。そう考えると、マーケターの仕事って凄いことですね。

マーケティングがうまくいかない理由、組織に問題があるかもしれません

顧客視点に立つ。マーケティングは「人とは何か」を考える哲学だ

平尾:

個別分析や部分ごとの最適化は、ずいぶんと進んできました。その上で、マスやデジタル問わず、データを統合的に分析する必要があるのはなぜでしょうか。

原田:

大きく2つありますね。ひとつは、意思決定のためのエビデンスを知るため。再びメールマガジンの例を挙げますが、商材ごとにメルマガがあるとしましょう。多くのメルマガが配信されている中で、企業としてどれを優先して配信するべきかの根拠が、メールごとの個別分析だと見えてこないので、横断的に俯瞰した分析を行う必要があります。もうひとつは、市場の速度に対応するためです。3ヶ月前に打ったCMと今月打ったCM、全部同じ条件であっても成果が違うことは、もう常識になっていますよね。従来シーズナリティとして扱われたスピード感やイレギュラー性とは違う次元で、市場の反応の複雑性が高まっている。統合的に分析することで、それに対応できるようになるのです。

平尾:

速度の背景に、消費者それぞれの価値観があるからと考えています。ライフスタイルも消費行動も様々ですよね。となると、個別最適でよいのでは?とも感じますが…

原田:

生活が豊かになって、一方的に需要を作っても人は動かなくなってきました。そのために、正しく需要と供給を合わせるために顧客視点に立たなければなりません。しかし、価値観も違い、使っているデバイスもバラバラ…となると、顧客視点に立つことが難しい。セグメントごとに消費者を捉える必要はありますが、全体方針は束ねておかないといけません。

平尾:

そもそも、マーケターは昔から顧客視点だったのでしょうね。ただ、経済が成長していたし、価値観も近しい。顧客の視点に立ちやすい時代だったから、分析の必要がなかったのだろうなと思います。つまり、現代の顧客視点に立つために、データを統合して分析する必要がある。

原田:

そうです。そして、抽象度をあげて分析をする必要があります。

平尾:

抽象度を上げるとは、視野を広くするという意味ですね。

原田:

データを扱うとき、この範囲で見る・これとこれを代表値として見るなど、自分の中で絞り込み、何を特徴とするか細かい意思決定をしています。データから抽象度を上げて示唆を得る、次は個別具体性を高めてどんどん顧客のセグメンテーションをしていく。その往復でプロセスを深めていかないと、データ分析はできません。

マーケティングがうまくいかない理由、組織に問題があるかもしれません

平尾:

さらに、市場の速度が早くなっている。細くなったデータを抽象度高く、再構成するという活動をやり続けないといけないわけですね。去年のセグメンテーションが、次の年にはまったく違うものになっていたという可能性もあるわけで。

原田:

マーケティングを突き詰めると、「人とは何か」という哲学になると思います。行動データは、将来の属性データになるんです。逆に考えると、属性データと言っているのは過去の行動データでしかないということに立ち返る必要があります。それに、ペルソナも注意して扱わなければなりません。たとえば、ペルソナ上は犬を飼って港区のタワーマンションに住んで…かもしれませんが、真逆のペルソナの人が、別の切り口で消費を楽しんでいるケースもあります。しかしプロダクトに対する消費という結論部は一緒ですよね。そこを、マーケターとしてどう見るか。

平尾:

ペルソナも抽象度をあげていくと、「今喜びたい人・楽しみたい人」というレベルになるのかもしれませんね。マーケターは分析力の背景に、人間力が必要になってくる。

原田:

「あなたの人を理解する・人をわかるということは、どういうことなのか」という問いでもあるのです。

マーケティングがうまくいかない理由、組織に問題があるかもしれません

ABテストは危ない!? 個別最適で分析がムダになる

平尾:

原田さんが、データ分析の現場で気をつけていることはありますか?

原田:

ビジネス観点としては、分析の結果、影響するの範囲が狭くならないように、というところです。セグメントを細かく切っていくと小さくなる。分析の観点でいうと「率」と「実数」、このくらいの率が上がった、でも小さい母集団になっている。ビジネスインパクトに置き換えてシビアに評価すると影響が小さい場合、分析の役割が小さくなるということになってしまうので。

平尾:

デザインや機能、目に見えているもの最適化はしたけれどセグメントが小さい可能性がある。結果、影響力が少なくなってしまうという。個別最適・部分分析の落とし穴ですね。

原田:

細かいセグメントの最適化をしたとしても、サイトやサービス自体が方針変更や閉鎖してしまうということもあります。だから、ABテストはその危険性をはらんでいるのですよね。個別最適を積み上げているだけだった、ということになりかねない。本来は、仮説やユーザー像を持ったうえで、検証の方法を考える。そして、部署間みんなで合意で決めて行うのがABテスト。

平尾:

Aが良かった。ならば、Aの中でA’がよかった、A'の中で…というのを繰り返していくのが目的ではない

原田:

消費者のサービスとの向き合い方ってこれからも変わっていくでしょう?インターフェースだって変わる。そのためには、外部のサービスや見え方に紐づいた分析だけではなくて、カスタマーデータベースを持っておく必要があります。分析したデータに普遍性を持たせておくのです。

平尾:

サイトやサービスが変わっても、カスタマーデータを持っていればその分析もムダにはなりませんね。となると、分析の本質って改善ではなくて顧客を捉えることなのだとわかります。改善のための分析に集中してしまうと、環境が変わってしまった途端その分析自体が意味のないものになっていく。

原田:

マーケターは、カスタマーデータベースに対する自分のロジックを持っていないと難しいと思います。いろんな出口をイメージしながら、できるだけ汎用性の高いアルゴリズムを持っているというイメージですね。

平尾:

まず足元、カスタマーデータベースを持っていれば環境の変化にも対応できる。そのためには、マスやデジタルの垣根を越えてデータの統合分析をしなくてはならないということですね。本日はありがとうございました。