連載「デジタルマーケティングのその先へ」第3回

デジタル時代だからこそ“マーケティングの原点とは何か”を考える

当社が開発を進めているマーケティングミックスプラットフォーム「XICA magellan(マゼラン)」は、オフライン・オンラインを問わない統合的なアトリビューション分析とマーケティング全体最適の実現、リアルタイムな分析による高速PDCAの実現などを強味として、企業のマーケティング活動を支援していきたいと考えています。

では、マゼランが目指している価値の背景には、デジタル時代のマーケティングにどのような課題があり、またその課題をどのように解決することがマーケティングの進化に繋がるのでしょうか。中央大学 大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)の教授で経済学博士の田中 洋先生と弊社代表取締役の平尾 喜昭が対談しました。

デジタル時代だからこそ“マーケティングの原点とは何か”を考える

“作業”となってしまったマーケティングを原点に戻したい

平尾:

まずは、マゼランの開発思想について説明させてください。マゼランは、消費者の認知や興味に対して企業のどのようなマーケティング施策が応えているか、そしてそれらがどれだけ購買行動へ直接的、間接的に影響を与えているかといったマーケティング活動の全体像を捉え、予算のアロケーションを決める際にその判断材料となる示唆を提供するというコンセプトで開発しました。

このマゼランを開発した理由は、まずはマーケターからのニーズが非常に高かったということ。「オンライン、オフラインを問わず様々な施策を展開する中でどのように予算配分を決めていけばいいのか=全体最適をすればいいのかわからない」という声や、「常に変化する世の中の動きや消費者の購買意識に合わせて、リアルタイムに施策を最適化していきたい」という声は非常に多く聞かれました。

加えて、デジタルマーケティングが浸透する中で、デジタルネイティブとして育ち、デジタル以前のマーケティングを知らない若手マーケターたちに対して、かつてのマーケティングのノウハウを取り戻させてあげたいという思いがあります。インターネット広告は誰が接触して行動に移したのかも、広告チャネルからどれだけのコンバージョンが生まれたのかも全てが数値化され、マーケティング活動の良い悪いがROIによって近視眼的に評価される傾向にある。その中で、若手マーケターから、かつてのマーケターなら当たり前のように持っていた“仮説志向”が欠如してしまったのではないかと思うのです。

例えば、ある薬局のデジタルマーケティングを行っている新米マーケターが、オンライン上の結果データだけを見て「なぜ水曜に広告出稿以上の売り上げが突出しているのかわからない」と悩んでいる。実はお店で会員向けに割引を行っている日なのですが、マーケターはそこで「お店で何か特別なことをしているのかもしれない」という仮説が立てられていない。関係者に尋ねれば、そもそもお店に出向けばすぐわかるのに、最終的には「目の前にあるデータで説明できない事象ということは、“たまたま”なのだろう」と嘘のような結論を本気で導出してしまうわけです。

つまり、自分の業務に直結する限られたデータだけを見ることで“全てが把握できている”と過信してしまい、データからは見えないことを想像し、仮説・立証する力が落ちている。その結果、マーケティングは数字を動かすための“作業”となり、市場や消費者の状況を捉えようとする意識が低下してしまった。そして、マーケティングという“作業”は1パーセントにも満たない小さな改善を積み重ねることが目的となってしまい、市場や消費者を理解した上で大きな成功を収めようというチャレンジングなマーケティングをしなくなってしまったのではないかと思います。

デジタル時代だからこそ“マーケティングの原点とは何か”を考える

平尾:

マーケティングは本来作業ではないし、市場を把握してビジネスを大きく動かしていこうというダイナミックなものであるはずです。マゼランを通じて、こうした従来のマーケティングの価値観をデジタル時代のマーケターに取り戻してほしいと考えています。

ちなみに、データが豊富に手に入れることができる今の時代は、マーケターにとって大きなチャンスではないかと思っています。かつてのマーケターたちがトライアンドエラーを繰り返してきたマーケティングの全体構造の把握・理解をツールとして提供することで、豊富なデータを最大限活かした形でダイナミックなマーケティングに挑戦できる環境を提供したいと考えています。

田中先生:

確かに、いまのマーケティングはどんどん“エンジニアリング”になっているように感じます。ツールを駆使すれば、誰でもマーケターになれる時代。それ自体は“マーケティングの民主化”であり否定するわけではありませんが、マーケティング施策の全体像を見渡す力や市場構造を把握し理解できる力を備えた専門性の高い人材が希少化しているのではないでしょうか。そうしたマーケティング人材の創出を目指すことがマゼランの目的であれば、それを素晴らしいことではないかと思います。

全体に目を向けなければ、A-Bテストも無意味になる

平尾:

先生は“エンジニアリング”という表現を使われましたが、最近のデジタルマーケターは“トレーダー”になっているとも言えますよね。数字の変化だけを見て改善を試みる。数字以上の情報に目を向けない。

田中先生:

そうですね。例えばデジタルマーケティングでよくある手法に「A-Bテスト」があります。が、テストすることそれ自体はいいのですが、それには限界があると思うのです。「赤か、青か」という選択をデータに基づいて行う以前に、そもそも豊富な色がある中で赤と青が選ばれる理由がよくわからない。自分たちが何を伝えたいのかをしっかりと固めて、市場全体の構造を把握していなければ、赤と青を選ぶ必然性は生まれないはずであり、A-Bテストそのものが無意味になってしまうのではないかと思います。

平尾:

おっしゃる通りですね。加えて、「A-Bテスト」は2者択一で“答え”を求めようとしていますが、実は本来のマーケティングであれば「A-Bテスト」は仮説を立てて実証するだけのもののはずです。その実証をマーケティング全体に活かしていくこともできるはずなのに、部分最適だけに留まってしまっているのではないかとも思います。

田中先生:

デジタルマーケティングは細かい部分最適の方向に進んでいってしまう可能性はありますね。

デジタル時代だからこそ“マーケティングの原点とは何か”を考える

平尾:

一方、今の時代はマーケティングオートメーションやインバウンドマーケティングにように、仮説をアクションに移すためのツールは豊富に出てきています。マーケターが仮説力を備えればこれらのツールの効果を最大化できるのではないかとも思います。企業の中には、便利なツールは導入しているのに、そこで生まれるデータの中から「こういう顧客はロイヤルカスタマーだ」と評価する方法がわからないという声も多く聞かれます。このギャップが大きな課題ではないでしょうか。マーケティングオートメーションはマーケターの作業を効率化するものではありますが、それを活かすのは結局マーケター自身の仮説力ではないかと思います。かつてのマーケターは、自分自身の仮説力によって「この顧客はロイヤルカスタマーだ」という評価ができていたはず。それを言えさえすればマーケティングオートメーションはすごい効果を生み出すはずなのです。そういう意味でも、マーケターに仮説力を取り戻すことは世の中にあるあらゆるマーケティングツールの価値とその効果を最大化させるのではないかと思います。

田中先生:

企業にとって、顧客へ直接のアプローチできるの方法はすごく少ないのではないのではないかと思います。かつては、テレビやダイレクトメール、今はマーケティングオートメーションといってもニュースメールのようなものだったりもします。マーケターが仮説力を身につけることで、こうした顧客へのアプローチ手段ももっと豊かになってもいいのではないかとも思います。

平尾:

先生が提言されているマーケティングの市場構造理解をすれば、世の中の様々なツールを有機的に繋ぎ合わせて顧客へのアプローチを考えられるのではないかと思います。逆に理解していないから、ツール選びもトレンドに合わせてしまったり、ダイナミックに変化させることができないのではないでしょうか。

マゼランの先に待っているマーケティングの世界

平尾:

マゼランは、田中先生がおっしゃる「市場の構造を理解して、(その市場を)目的を持って動かしていく」というマーケティングの定義を体現できるのではないかと思います。では、そうしたマーケティングを実現した先にどのような世界が待っているのでしょうか。田中先生の体験談からお話いただけることはありますか?

田中先生:

究極的には、人間の習慣を変えるのではないかと思うのです。「イノベーション」という言葉の定義には色々なものがありますが、私は人間のルーティン(習慣)を変えること、そしてその変化した習慣が(人々の中で)優先されることが本当のイノベーションではないかと思うのです。例えば、スマートフォンが登場して多くの人の習慣が変化し、そしてスマートフォンという存在が生活の中で欠かせないものになった。だからスマートフォンはイノベーションたりうるのです。

平尾:

ということは、市場構造を理解してマーケティングを行った先に目指すのは、売上や効率ではなく、人々の生活そのものを変える=イノベーションを起こすということなのですね。私もそう思います。確かに、かつてのマーケターは世の中にイノベーションを起こす先駆けでしたよね。例えば、Appleのスティーブ・ジョブスは優れたマーケターだと思うし、彼のマーケティング力によってiPhoneが世の中を変えてイノベーションになったのだと思います。

田中先生:

ジョブスがすごい点は、「これはイノベーションになる」と見抜く先見の明だと思います。そしてそこから製品を生み出して、私たちの生活をいくつも変えてきた。とはいえ、どの企業にもジョブスのような天才がいるとは限りません。そこで、集団の知恵を駆使したマーケティング力が重要になってくるのではないかと思います。そういう意味では、マゼランはこの“集団の知恵”を引き出す有効なツールになるのではないでしょうか。

マーケティングは“ファクト”と“ミッション”から始まる

平尾:

マゼランが掲げる価値のひとつに「ニーズ変化などに合わせた高速PDCA運用」というものがあるのですが、私もマーケティングではチームのメンバーが“集団の知恵”を出し合い仮説を立て、それを実践して有効性を検証して議論を深めていくという作業が非常に重要だと考えていて、マゼランがリアルタイム分析で提供したい価値も、その“議論を深める”という点にこそあるのではないかと思います。マーケティングにおける人材の知恵は仮説を考えることやその効果を検証して理解を深めるところにこそ発揮されるべきであり、その意味においてマーケティングにおける人の役割は非常に重要。PDCAはあくまで議論のためのインプットであり、そこから深い議論ができる場を生み出したいと考えています。

田中先生:

マーケティングで重要なのは、「すべてはファクトから出発する」ということなのではないかと思います。実は、企業でこれができていないケースは少なくない。例えば、先進的な企業であっても社内に営業部門が持っているデータとマーケティング部門が持っているデータという2種類の異なるデータがあって、ファクトが2つあることでどちらを活かしていけばいいのかわからない。そこでは本来データ=ファクトをひとつにまとめる必要があるわけです。マゼランのように様々なデータをひとつのダッシュボードにまとめて共有するようなイメージですね。

平尾:

今、社内には様々なデータが散在していて、仮説が立てられない、マーケットを理解できないという課題がマーケターの中にある。もちろん、マーケティングは個人プレーではなくチームで行うものなのでメンバーが知恵を出し合って進めるべきなのですが、そこで議論の出発点となるデータ=ファクトがない。議論では「僕の経験上では・・・」みたいな話になるわけです。

デジタル時代だからこそ“マーケティングの原点とは何か”を考える

田中先生:

マゼランが提供するようなマーケティングの全体像を示すデータは、まさに今マーケティング活動で生み出されている“ファクト”なのだから、これを共有して議論を始めて、マーケティングの改善に活かしていかなければなりませんよね。

平尾:

ちなみに、マゼランは議論のベースとなるファクトの提供、市場理解の促進、全体最適の実現といった価値を提供したいと考えていますが、その結果として行われるマーケティングの方向修正や改善などは、市場の変化に合わせて従来よりもスピーディー行われるべきなのではないかと思います。そのスピード感についてはどう感じますか?

田中先生:

スピード感はもちろん大事ですが、まずはマーケティング活動全体における構想を持てるかどうかという点が重要なのではないかと思います。つまり、「市場において何を目指したいのか」「自分たちは何をしたいのか」「世の中をどう変えていきたいのか」というミッションを持つということです。それがなくただ単に「競合に勝つため」「売上を上げるため」のような目標では、マーケティング活動そのものがチープになってしまう。ミッションというと空想や絵空事というイメージがあると思いますが、ミッションとはコミットメントのことであり、誰が何と言おうとやり遂げるべきもの。それが売上に結び付く話でなくても、ミッションという名の高い志をモチベーションとして持つことが重要なのではないかと思います。

例えば、ウォルト・ディズニーは非常に素晴らしい構想を持っていたわけです。彼はカリフォルニアに最初のディズニーワールドを作り、その後フロリダに2つ目を作りました。ディズニーワールドができる前、フロリダは川と森しかない荒地だったのですが、ディズニーはそこにディズニーワールドを中心に多くの人が集まりレジャーを楽しむリゾート地が広がる“絵”がまざまざと見えていたのですといいます。それがマーケティングにおける“構想”であり、マーケティングでは売上や獲得数を追うだけでなく、世の中に大きなインパクトを与えたい、世の中を変えたいという大きなミッションを掲げ、マーケティングから生まれるファクトを羅針盤としてミッションの実現に進んでいくべきなのではないでしょうか。

レーダーや計器類を搭載しなければ、飛行機は目的地に辿り着かない

平尾:

「羅針盤」という存在は非常に重要ですよね。マゼランもマーケターにとっての“ナビゲーター”になることを目指しています。実は、今日的なマーケティング運用の多くの場合では、直近の数字は見えているが、中長期的に見て自分たちがどこを目指して走っているのかという将来の目標はあまり見えていないように感じます。飛行機に例えると、視界だけを頼りにレーダーを見ないで飛んでいるようなイメージ。ここでもしマーケターがレーダーを見ることができれば、自分たちが目標としているものに対して近づいているのか、遠回りしているのかがわかるはずなのです。ただそのためには、レーダーは常にマーケティングの動きを把握していなければならない。常にマーケティング活動の全体像を分析し続けなければ、構想があってもどうすればそこに近づいていけるのかが見えてこないのではないでしょうか。田中先生がおっしゃる“構想”と、そこに向かって走るための“羅針盤”はセットで考えるべきだと思いますね。

田中先生:

それに関連するものでは、「知覚緊急度(perceived urgency)」という言葉があります。世の中で自分に情報を伝えてくれる様々な“信号”が飛び交っているのですが、そこではその信号が発するメッセージを正確に判断する必要がある。この判断を誤って緊急性の高い信号を見落としてしまうと大変な事態が発生するわけです。医療機関で患者に取り付けたモニター機器が発する信号や飛行機の計器類がパイロットに状況を知らせる信号をイメージするとわかりやすいと思います。

こうした信号は見落とすとクリティカルな状況が発生するリスクが生まれるわけですが、マーケティングや企業経営においても、対処しなければならない重要な信号を見落としてしまい、適切な対応ができないということは少なくないのではないでしょうか。

平尾:

マゼランがマーケティング分析を毎日繰り返す意義は何かと考えたときに、このお話は非常に重要な示唆だと思います。マーケターにとって、その瞬間の状況を伝えて必要なアラートを鳴らしてくれる“計器”があるかないかでは、マーケティングの進め方に大きな違いが出るのではないかと。アラートを鳴らしてくれるどころか、そもそもその計器すら持たずにマーケティングを進めてしまっては、緊急性の高いクリティカルな問題を見落としてしまい、結果的にマーケティング活動全体が失敗に終わるという結末もあり得るのではないかと思います。

マーケティングは、飛行機を飛ばすことに非常に似ていると思います。そこでは目的地(=ミッション)に向かって正確に飛んでいるかを伝えるレーダーが必要であり、今の状態に問題があるか否かを確認できる計器が必要。先生のお話を伺っていて感じたのは、デジタルマーケティングがもたらした最大の成果は、マーケティングにコンバージョン計測や効率化といった価値をもたらしたことではなく、マーケティングを確実に進めるためのコックピットを完成させる土台(レーダーや計器にインプットできるデータの収集)ができたということなのではないかと思います。マゼランも、マーケターが確実に目的地に向かって飛んでいくためのコックピットとなることを目指したいと思います。

古くて新しい“武器”をもたらし、マーケターの能力を最大限引き出す

平尾:

本日はお時間をいただきありがとうございました。改めて私は、マゼランを通じてマーケターのみなさんにマーケティングの原点を取り戻してほしいと考えています。(デジタル以前の)かつてのマーケターたちは、見えないものを見るために仮説力を磨きマーケットを理解してそこに変化をもたらそうと挑んできた。そうした昔のマーケターの“当たり前”をこれからの時代のマーケターたちにも武器にしてほしい。既にデータやテクノロジーというかつてのマーケターが欲しくても手にできなかった武器を手にしている状況でこうした新たな武器を手にしたら、マーケティングはもっとダイナミックなものになり、世の中に新たなイノベーションをどんどん起こせると思うのです。そのためにこれからマゼランをもっと進化させていきたいと思います。

田中先生:

平尾さんのおっしゃる通りだと思います。企業経営やマーケティングは実はまだ感覚に頼る野性的な部分が多分に残っていて、これからの時代は、その感覚に寄り添う形でビジネス環境の中にある様々な信号を判断するという課題をテクノロジーによって手助けできるようにならなければ、経営者やマーケターが本来持つ優れた能力(野性的な能力)を十分に活かすことができないのではないかと思うのです。マゼランによってこのマーケターの能力を最大限引き出すことができれば、マーケティングはもっと豊かなものになるのではないかと思います。