電通アイソバー 得丸社長が語る、マーケティングの“現在”と“未来”<3>

スマートフォンやソーシャルメディアの普及により大きく変貌した消費者のライフスタイルは、企業のマーケティング活動にどのような影響を与えているのでしょうか。アナログの時代から続くマーケティングコミュニケーションには“対応しなければならない変化”と“変わらない価値”があり、そこを見極めて未来のマーケティングの在り方を理解することは、刻々と変化する時代に取り残されないためにマーケターが考えなければならない重要なテーマだと言えるでしょう。
そこで、デジタルマーケティングの黎明期からマーケティング環境の変化を捉えてきた電通アイソバー株式会社 代表取締役社長(CEO)の得丸英俊氏にお話を伺いました。

マーケティングの大きな潮流の進化と共に歩んできた得丸氏には、デジタルマーケティングの将来がどのように見えているのでしょうか。第3回目の今回は、未来のマーケティング組織の在り方や経営層が持つべき意識についてご紹介します。

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電通アイソバー株式会社 代表取締役社長(CEO)の得丸英俊氏
電通アイソバー株式会社 代表取締役社長(CEO)の得丸英俊氏

経営者がマーケティング=企業経営の中核という意識を持てるか

サイカ:

アドテクノロジーの登場は、企業のマーケティング活動における戦略だけでなく、組織や人材の在り方にも大きな影響をもたらしていると思います。この点について得丸社長のお考えをお聞かせください。

得丸氏:

従来型のマーケティング部門や広告宣伝部門の担当者にとっては、テクノロジーに対して抵抗感がある場合もあり、実現したいデジタルマーケティングがあっても組織や人材が追い付いていかないという課題は多く聞かれます。そうした課題をどのように解決するかというテーマは、毎年開催されるad:tech tokyoなどでも度々議論されるわけです。その中で、マーケティングや広告宣伝の担当だけでなく、情報システム部門がマーケティングに関わってきたりなど、組織や人材の在り方が少しづつ変化しているのではないでしょうか。

一方で、情報システム部門にとっては、企業の基幹システムにはあまり新しい動きが起きにくい中で、マーケティングテクノロジーによって大きな動きが生まれている中で、そこから生まれる課題に耳を傾ける立場になってきているとも言えます。ただ、情報システム部門がそうした状況を歓迎する場合と、歓迎しない場合が企業によって生じてしまったり、そもそも情報システム部門をSIerにアウトソースしている場合などもあるため、マーケティングのデジタル化が進む中で企業の組織にちょっとした混乱が生まれている場合もあると思います。

そうなると、企業の経営層がこうしたマーケティング環境の変化を敏感に捉える意識が高い場合には、きっちりと対応して組織を組み立てることができる。CIOやCTOといった人がマーケティング部門と近いところで一緒に動いたり、マーケティング部門と情報システム部門を組み合わせたような組織を作ることができるわけです。そういった組織の変革に着手できているところと、そうでないところで、結構な差が生まれてしまうのではないかと思います。

サイカ:

組織の壁を越えて製品、マーケティング、広告宣伝、システム、営業、サポートとういった様々な立場の人材が企業内でシームレスに連携しなければならないという課題は、私も強く感じます。

得丸氏:

そのようにして企業の中にマーケティングのノウハウを蓄積していかなければ、マーケティングに求められるスピード感は得られないのではないかと思います。そういう意味でも、今まさに組織は変革を求められている時期なのではないかと思います。

サイカ:

では、企業が組織を変革し、自社でノウハウを蓄積してマーケティングを推進していく体力を身に着けたとすると、広告会社にはどのような役割が求められるのでしょうか。

得丸氏:

自社のマーケティング活動では得ることができない知見や第三者的な視点を提供できる存在になっていくのではないかと思います。マーケティング活動を自社内で完結させると自社のノウハウ、自社がいる業界内の知見は蓄積されますが、その外の世界を知る手段を得ることができません。その視野の広さや自社が持ちえない知見を求めるためには、広告会社などパートナー企業との協業は重要な価値を生み出すのではないかと思います。

デジタルマーケティングに対するリテラシーが十分でなかった時代には、デジタルに強い広告会社がマーケティングのブレーンとして関わってきましたが、本来であれば企業自身が自社のマーケティングに対するノウハウを最も持っていなければならないはず。その上で自社に足りないノウハウを広告会社などのパートナー企業に求めるという在り方が自然であるはずなのです。

ただ、ここを企業が目指すか否かについても、経営層がマーケティングに対してどれくらい高い意識を持っているかで決まってくるのではないでしょうか。企業にとってマーケティングが経営にとってのミッションクリティカルであるという意識を経営層が持っているかどうかは、とても重要な岐路なのではないかと思います。

電通アイソバー 得丸社長が語る、マーケティングの“現在”と“未来”<3>

アドテクノロジーに依存することで、見えなくなるもの

サイカ:

他方、アドテクノロジーの登場は、マーケティング活動そのものが肥大化したことにより全体を俯瞰するのが難しくなったり、効率的な成果獲得を求めたことによって直接的な効果貢献の評価と改善ばかりに視点が集中してしまったり、プロセスの検証が軽視されるような動きもあるのではないかと思います。アドテクノロジーはマーケティングの運用や組織の在り方にどのような課題を生み出しているのかお聞かせください。

得丸氏:

数字的な結果を偏重する動きは、今後もしばらく続くのではないかと思います。これまで定量評価しにくかったものを評価できるようになったわけですから、そこに視点が集中するのは避けられないと思うし、それが担当者の評価と結びついていれば、定量評価そのものがミッションになるわけです。ただ、どのようなものをKPIとするかという面では時代と共に変化がみられるため、CPCやCPAといった直接的な成果貢献だけでなく、アトリビューション分析のようにカスタマージャーニーを総合的に評価するというアプローチも拡大していくのではないかとも思います。

ただ私が懸念しているのは、マーケティングがアドテクノロジーに依存してしまい、アドテクノロジーによって見えたことを仕事の成果にしてしまうのは適切ではないのではないという点です。アドテクノロジーによってこれまで見えなかったものが見えるようにするということは重要なことではあるものの、それはアドテクノロジーが実現したことであってマーケターが実現したことではありません。

本来であれば、マーケターの中に「こういうマーケティングでありたい」という理想やコンセプトを持っているはずであり、アドテクノロジーの力を借りながらそのコンセプトを追求することが重要なのです。

サイカ:

自分たちのやりたいことを明確化しておかなければ、アドテクノロジーという手段が目的化してしまいますよね。短絡的に便利なツールを導入していくだけでは、自分たちがどこを目指しているのかが見えなくなってしまいます。

得丸氏:

そこでも重要になってくるのは経営視点であり、中長期的な視点でマーケティングを見ていく必要があるのだと思います。海外の企業では人材の入れ替わりが激しいためマーケターも短期的な成果を追い求めがちですが、離職や異動が少ない日本企業であれば、中長期的なビジョンをもってマーケティングを追求してほしいですね。

<続く>