電通アイソバー 得丸社長が語る、マーケティングの“現在”と“未来”<2>

スマートフォンやソーシャルメディアの普及により大きく変貌した消費者のライフスタイルは、企業のマーケティング活動にどのような影響を与えているのでしょうか。アナログの時代から続くマーケティングコミュニケーションには“対応しなければならない変化”と“変わらない価値”があり、そこを見極めて未来のマーケティングの在り方を理解することは、刻々と変化する時代に取り残されないためにマーケターが考えなければならない重要なテーマだと言えるでしょう。そこで、デジタルマーケティングの黎明期からマーケティング環境の変化を捉えてきた電通アイソバー株式会社 代表取締役社長(CEO)の得丸英俊氏にお話を伺いました。 マーケティングの大きな潮流の進化と共に歩んできた得丸氏には、デジタルマーケティングの将来がどのように見えているのでしょうか。2回の今回は、得丸社長が考える理想的なマーケティングの在り方についてご紹介します。<第一回を読む>
電通アイソバー 得丸社長が語る、マーケティングの“現在”と“未来”<2>
電通アイソバー株式会社 代表取締役社長(CEO)の得丸英俊氏

“三河屋さんのサブちゃん”は、理想的なマーケター?

サイカ:

おっしゃる通り、今の時代はひとつの施策で世の中を動かせるということはなく、マーケティング活動はマス広告、アドテクノロジー、既存顧客に対するCRM、PR、ソーシャルメディアマーケティングなど様々な施策が複雑に絡み合っています。消費者の行動、マーケティングメソッドが変化・多様化を続ける中で、得丸社長が考える理想的なマーケティング戦略の視点についてお考えを教えて下さい。

得丸氏:

昔から言われているのは、マーケティングはアニメ『サザエさん』に登場する“三河屋さんのサブちゃん”を実現することだということですね。サブちゃんは磯野家のお勝手口からフラっとやってきて、サザエさんに「そろそろ醤油がなくなる時期かと思って」と気を利かせてくれますよね。サザエさんはそういうサブちゃんの機転に対して醤油を買うわけです。

サブちゃんがすごいところは、磯野家の台所事情と食生活の実態をしっかりと把握しているところで、昔の小さいコミュニティでは当たり前のことだったのかもしれません。それが、マスプロダクションの大量生産・大量消費の時代になって廃れていき、そして今の時代はテクノロジーの進化によって再び消費者ひとりひとりのライフスタイルや趣味嗜好に最適なマーケティングを展開するパーソナライズの時代へと変化してきているのです。そうすれば、企業と消費者が長期間にわたって良い関係を作っていけるわけですね。

サイカ:

「消費者を理解して最適な商品・サービス・情報を届ける。そのギブアンドテイクによって良い関係を継続的に構築する」という考え方は古くからある考え方ですが、その原点に改めて立ち返る必要があるということでしょうか。

得丸氏:

パーソナライズやレコメンデーションはこれまでも何度も提唱されてきた話ですが、改めてテクノロジーが進化して企業が目指すべき方向性がはっきりしてきたと言えるのではないかと思います。

サイカ:

今のパーソナライズやレコメンデーションは、購入履歴などを基に再購入を促すスキームのものが多いように感じますが、三河屋さんのすごいところは何気ない会話から潜在ニーズを顕在化しているところではないかと思います。サザエさんは醤油のことなど全く気に留めていなかったのに、「実は醤油が足りないんじゃない?」というコミュニケーションからニーズを喚起して、購入に結び付けるだけでなく「サブちゃん、ありがとう」と感謝までされるわけです。そう考えると、今のマーケティングは消費者から感謝されるようなアプローチをしているのか、消費者にプレッシャーを与えるだけのものになっていないかを検証してみる価値がありそうですね。バナー広告を見て「気づかせてくれてありがとう」などと思うことはありません。しかし、消費者から感謝されるマーケティングが未来に求める姿なのではないでしょうか。

得丸氏:

テクノロジーの進歩によって「できること」が増えてきている一方で、消費者の受け止め方をもっと意識しなければならない時代になってきているとは思います。企業にとってサザエさん(=消費者)は一人ではなく、その嗜好性はバラバラで時代に応じて刻々と変化しています。サザエさんは、サブちゃんの提案が刺さらなくても笑って済ませるかもしれませんが、消費者によっては、最適な提案ができなければ、嫌われるだけでなく悪い評判がソーシャルメディアを通じて多くの人々に拡散していってしまう可能性も潜んでいるわけです。企業のコミュニケーションが消費者のニーズにマッチした場合のリターンと、マッチしていなかった場合のリスクは大きく出やすいと言えるでしょう。

これからの時代は、企業が接する消費者ひとりひとりいがどのような性格や嗜好性を持った人なのか、その人はいまどのような気分なのかを理解したマーケティングが求められるわけです。ビッグデータやAI(人工知能)の進化はこうしたニーズに応えるのではないかと思います。例えば、ソーシャルメディアでの書き込みから気分を分析するようなことが実現できるかもしれないということですよね。かつては、消費者ひとりひとりを理解するなんて夢物語のような話でしたが、テクノロジーの進化によってそれを本当に実現できるようになるのかもしれません。

サイカ:

そういう意味では、こうしたテクノロジーの進化についていける企業と取り残される企業で、事業の明暗を分けるということも、今後はあるのかもしれませんね。

得丸氏:

そうですね。今後は企業により一層ITリテラシーが求められる時代になると思います。その差が業績の差に繋がっていくのではないでしょうか。テクノロジーの進化は日進月歩で、いかに新しい技術をマーケティングの中で活用していくかというトライアンドエラーを積み重ねた企業ほど、テクノロジーを活用するための知見を蓄積していくことができるのではないかと思います。

電通アイソバー 得丸社長が語る、マーケティングの“現在”と“未来”<1>

広告は消費者にとって「有益」にならなければならない

サイカ:

テクノロジーの進化によるマーケティング環境の変化は、消費者にとっての広告の捉え方や企業にとっての広告の見せ方にも変化をもたらしているように感じます。この点についてはどのようにお感じですか?

得丸氏:

さきほど、マーケティングコミュニケーションとサービスが近づいているというお話をしましたが、消費者に対してベネフィットを提供する存在、消費者から「教えてくれてありがとう」と言われる存在として広告が捉えられるべきではないかと思います。役に立たない広告がどんどん出てくれば、消費者はシラけてしまうだけでなく、その広告=広告主に対してネガティブな印象を持ってしまいます。広告というとメディアの広告枠の話として捉えがちですが、本当はいかにして消費者との接点において自分たちの商品やサービスにニーズや購買動機を喚起してくれるかという一連の作業であるわけです。広告は、広告枠を通じて「自分たちの商品を買え」とプッシュすることではない。マーケティングコミュニケーションの在り方はテクノロジーの進化と共に大きく変わっていくのではないかと思います。

加えて、かつての大量生産の時代は生産コストを回収するために大規模にマス広告を展開してひとりでも多くの消費者にモノを買ってもらうというアプローチをとっていましたが、現代では生産技術が向上して小さい生産規模でも十分に利益を出せるようになってきました。サービスも、ネットを使ったサービスの場合にはスモールスタートして成長させていくというロードマップをとることが多いですよね。そういう意味では、従来型の広告はビジネスの実態にフィットしにくくなっているようにも感じます。コミュニケーションの手段をニュートラルに見て、自分たちのビジネスをどのように成長させるかというロードマップの中で、どのタイミングでどの手段を選ぶのが適切かを十分に考慮しなければならない時代になっていると思います。 ただ、昔も今も企業が消費者との関係において求められるものは変わらず、“消費者のニーズを理解し、それに応える価値を提供する”、“消費者と良好な関係を築くことで商品・サービスを長く使ってもらう”というマーケティングの原点は変わりません。その間を取り持つ広告の在り方、アプローチの方法が時代とともに変化しても、目指しているところは一緒なのです。今後は、これをどこまで顧客ひとりひとりのレベルで追求できるかが、マーケティングに求められるのではないかと思います。<続く>
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