電通アイソバー 得丸社長が語る、マーケティングの“現在”と“未来”<1>

スマートフォンやソーシャルメディアの普及により大きく変貌した消費者のライフスタイルは、企業のマーケティング活動にどのような影響を与えているのでしょうか。アナログの時代から続くマーケティングコミュニケーションには“対応しなければならない変化”と“変わらない価値”があり、そこを見極めて未来のマーケティングの在り方を理解することは、刻々と変化する時代に取り残されないためにマーケターが考えなければならない重要なテーマだと言えるでしょう。そこで、デジタルマーケティングの黎明期からマーケティング環境の変化を捉えてきた電通アイソバー株式会社 代表取締役社長(CEO)の得丸英俊氏にお話を伺いました。

得丸氏は、1988年に電通に入社。電通イーマーケティング・ワンや電通レイザーフィッシュをはじめとするデジタルマーケティングの戦略子会社の役員・代表を歴任したほか、電通のデジタルビジネス部門の立ち上げなどにも携わってきました。インターネット黎明期からその可能性に注目し、検索連動型広告の登場やソーシャルメディアの隆盛などを背景に片方向から双方向(インタラクティブ)へと変化・拡大していったマーケティングの大きな潮流の進化と共に歩んできた得丸氏には、デジタルマーケティングの将来がどのように見えているのでしょうか。これから4回に渡ってご紹介します。

電通アイソバー 得丸社長が語る、マーケティングの“現在”と“未来”<1>
電通アイソバー株式会社 代表取締役社長(CEO)の得丸英俊氏

ソーシャルの登場で変化した、企業と消費者の関係性

サイカ:

まず、スマートフォンやソーシャルメディアが当たり前になってきたこの数年の間に、マーケティング活動に接する消費者の意識や嗜好性はどのように変化しているのか。またこれに対して、企業活動におけるマーケティングの重要度や位置づけは最近どのように変化しているのか。得丸社長がお感じのところをお聞かせください。

得丸氏:

ソーシャルメディアの登場・普及によって、企業と消費者の関係性は大きく変化したのではないかと思います。具体的には、企業が持つブランドの在り方がコペルニクス的転換を遂げたということです。かつて、ブランドは企業が自分たちの“こうありたい”という思いを伝えるものとして存在し、その思いを支えるものとしてファクト、ヒストリーがブランドの脇を固めていたわけです。しかし、ソーシャルメディアの登場によって、企業側に様々な思いがあってもそれを受け止めた消費者がそれ以上の情報をソーシャルメディア上で流通させる。ブランドが“企業のもの”から“消費者のもの”へと転換したのです。

企業はブランドをどのように打ち出してメディアを活用して伝えていくかという点でコントロールが難しくなり、もちろん最初の情報発信は企業から行われたとしても、そのブランドがどのようなイメージで受け止められるかは、ソーシャルメディア上でどのように拡散するかに委ねられるようになったのです。ブランドをめぐる企業と消費者のバランスが大きく変わったと言えるでしょう。企業にとっては、いかにソーシャルメディアを継続的に活用して理想的なブランドイメージを醸成・拡散できるかが重要なテーマになっているのです。

サイカ:

“ブランドの民主化”ということでしょうか。企業の生み出したブランドが消費者による評価・評判が乗った状態で伝播していくのが当たり前になってきたということですね。

得丸氏:

もちろん、企業にとってソーシャルメディアはメリットも大きい。企業は消費者と“オールウェイズ・オン”でダイレクトに繋がることができるようになり、メーカー企業にとっては流通の先にいる消費者の姿が見えないという課題が解消されることになりました。企業と消費者が繋がることでブランドや商品を一緒に作り出していくという“共創マーケティング”が可能になったのも、ソーシャルメディアの普及が実現したことですね。

サイカ:

どのようにブランドの印象を消費者にインプットしていくかというかつてのブランドマーケティングから、どのように消費者のソーシャルメディア上のコミュニケーションの中にブランドが入り込んでいくかという視点が求められるようになりましたよね。一方的に広告を展開するだけでなく、より消費者に近い位置で何ができるかを考える必要性が生まれているように感じます。

得丸氏:

もはや企業は消費者に嘘をつけないですよね。消費者が企業の情報に接触する機会が増加してきていて、悪い情報が生まれればソーシャルメディアであっという間に拡散するわけです。加えて、インターネットの登場によって、消費者にとっては日常的に接触する情報の量が圧倒的に増えているわけです。その中で企業が発信するブランドにいかに関心・好意を持ち続けてもらうかという課題の難易度は、かつてよりも格段に上がっていると思います。

サイカ:

確かにそうですね。ゲームを例にすれば、それまで様々な企業が色々な施策を駆使してユーザーと関係性を築いてきたのに、ポケモンGOが登場したらわずか2日程度でメディアの発信する情報もソーシャル上での話題もポケモン一色に染まってしまった。ひとつの情報で世の中が大きく動くという今の状況を象徴するような出来事で、消費者の意識変化がものすごいスピードで起きることを実感することができました。

得丸氏:

そうかもしれませんね。スポーツの大きなイベントなどでソーシャル上にムーブメントが生まれるときなどもこれに当てはまると思います。ただ、とはいえリテラシーのある消費者は、イニシアチブを持って膨大に流通している情報から取捨選択しているのではないかとも思います。そこで、スマートフォンやソーシャルメディアなどの優れた道具をどのように使いこなせるかで情報リテラシーの差が生まれているという点がもうひとつの課題ですね。情報リテラシーがない消費者は簡単に操作できてしまうわけです。

電通アイソバー 得丸社長が語る、マーケティングの“現在”と“未来”<1>

サイカ:

ということは、コントロールが難しいソーシャルメディアの台頭と情報を受け取る消費者の情報リテラシー格差の拡大は、企業にとってマーケティング環境をより複雑なものにしているということですね。

得丸氏:

そうですね。加えてインターネットの登場以降、企業活動はプロダクトからサービスへとシフトしている。プロダクトを作っている企業にとっても、プロダクトを企業と消費者を繋ぐデバイスとして位置付け、継続的にサービスを提供することが重要になってきているのです。そういう意味では買っていただくためのコミュニケーションだけでなく、プロダクト+サービスを通じた継続的なコミュニケーション活動も求められるようになってくる。広告戦略のような従来型のマーケティングコミュニケーションとサービスを提供しながら生み出されるCRMのようなコミュニケーションがシームレスになってきていると思います。

サイカ:

インターネットの登場は一方でデータの視覚化という恩恵をもたらしており、企業にとってはアナログの時代よりもマーケティングしやすい環境が生まれたと言えるのではないでしょうか。その点についてはどのようにお感じですか?

得丸氏:

マーケティングに対する企業のニーズが変化してきているのではないかと感じています。かつては、マーケティングの目的はブランド認知の向上など事業への間接的な効果が中心でしたが、インターネットの登場によって顧客の獲得や売上、収益など企業の事業に直結するインパクトが求められるようになりました。マーケティングと事業への貢献の因果関係をデータで視覚化することができるようになったことで、マーケティングを積極的に展開するチャンスは増えていると思います。ただ、豊富に生まれるデータのどこに優先順位を持たせるか、どのようなデータを組み合わせて理解していくかといった取捨選択は、情報量が増えている分難しくなっているのではないでしょうか。

サイカ:

そこのリテラシーがマーケティングには求められるようになってきましたよね。単純にひとつの施策のKPIを追うのではなく、マーケティング活動全体が事業にどのようなインパクトを与えるのかを説明できるようにならなければなりません。

得丸氏:

そうなっていけばいいのですが、実は変われていない部分もあるのではないかとも思います。依然としてマーケティングの部分部分を見て最適化を図っているケースは多く、マーケティングの全体像をデータで把握して最適解を模索するという視点に立てている企業は多くはない。デジタルの進歩のスピードが速い分、新しい課題が生まれた際にはまず部分最適で対処をして、ただ一方で施策に横串を刺して全体最適ができているかという点については、横串を刺すべき領域が増えている分、非常に困難になっているのではないかと思います。

<続く>