広告を科学する(3)

経済学者ハル・ヴァリアンのWebマーケ論文、ポジションの逆説を詳しく解説

現在、広告業界の発展は目覚ましいものがあります。ITの進化を背景に、さまざまな広告手法が生まれました。また、新技術の活用方法や成功事例も常にアップデートされ、マーケッターを中心に、最新の情報が数多く発信されています。

しかし、「そもそも広告はどのようなメカニズムで効果を発揮するのか?」という議論は、あまり一般的ではありません。特に、事象・業界を科学する上で重要な担い手であるアカデミシャンの言葉は、限られた層にしか届いていないのが現状です。

そこで、各広告手法の専門情報だけではなく、マーケティング領域における学術的な研究を紐解き、ビジネスに活かせるよう、適切な広告施策の判断基盤やデータ分析の具体的な活用事例を提供していきたいと考えております。

Webマーケティングにおいて、SEOやWeb広告では、表示される位置がクリック数や利益を大きく左右します。一般的には、上にくれば来るほど有利であると考えられますが、果たしてそれは本当なのでしょうか。

今回は、そのようなwebでの広告や検索ワードのポジションについての研究を紹介します。

Varian(2007)ーウェブ広告研究のベンチマークとなっている論文ー

まず、Varian(2007)では、googleとyahooのデータを用いてオークション理論を構築した上で実証分析しました。結果の概要としては、より高い位置に表示される方が純利益が高くなる、というオークション理論の一般的な特性を示しました。

この論文の結果は、私たちの直感と合致しています。すなわち、「より高い位置に表示される方が得である」ということです。この結果は、言われてみれば当たり前のように思われるかもしれませんが、それを実際に実証し結果として表されたという事は、一つの科学的エビデンスとして重要なことです。

この論文は、現在マーケティングサイエンスで多く存在するWebマーケティングの研究の先駆けとなった論文です。論文の著者のハル・ヴァリアンは経済学者で、2002年からGoogleで広告オークションの設計をし、現在もなおGoogleのチーフエコノミストとして携わっています。

Jerah et al. (2011)ー「ポジションの逆説」の存在についてー

続いて、Jerah et al. (2011)では、サーチエンジンのキーワードからスポンサードサーチのポジションをビッドするような、製品の質が異なる企業のビッド戦略について、主に2つのオークションメカニズム(pay-per-impressionおよびpay-per-click)を利用して分析しています。

この論文の主たる主張は「ポジションの逆説(position paradox)」が存在するという事です。「ポジションの逆説」とは、優位な企業(Superior firm)と劣位な企業(Inferior firm)があったときに、優位な企業の方が劣位な企業よりも入札金額は少なく表示される位置(ポジション)も低いが、クリック数は多いという現象を指します。論文では、優位な企業と劣位な企業の商品の質の差が開けば開くほど、ポジションの逆説は起こりやすいと主張しています。

この背景に存在する仮定として、

  • 企業(もしくは商品)に関して詳しい層とそうではない層がいる
  • 詳しい層は、ポジションに関わらず優位な企業のサービスを選択する
  • 詳しくない層は、優位な企業と劣位な企業かが分からないので、とりあえず位置が上のものを選択する可能性が高い

という事です。このため、劣位な企業の戦略として、詳しくない層をターゲットとして、ポジションを高くしに行くためにビッドを高めていくことが必要になります。

しかしながら、優位な企業と劣位な企業の商品の質の差が大きい時ほど、より多くの人が企業の商品の優劣を見抜けるようになるため、結果としてポジションの逆説が発生しやすくなります。

サービスの選択

広告や検索ワードのポジションについて

この論文では、以上のような理論を数理的モデルとして構築した上で、実証分析をしています。使用したデータは、韓国の leading search engine からスポンサー広告のデータセットを抽出し、2008年7月の15日間の日時の広告の表示されるポジションと日時のインプレッション数 (何回キーワードがサーチされたか)、およびクリック回数を表したデータを用いています。

結果の概要としては、基本的にはポジションが上に位置すればするほどクリック数が増えるという結果になりました。しかし、上述したようなケースでポジションの逆説が発生したことが確認されたため、理論と整合的な結果を得られました。

サイカの見解

Varian(2007)について、当時は現在ほど情報の接点が少なく、消費者は商品 、サービスを比較できていないまま検索をするため、上位層のポジションに依存しがちだった。しかし現在は、商品・サービスを膨大な情報と照らし合わせて比較できる環境にあるため、上位層のポジションに依存しづらくなってきたと解釈をしています。

Jerah et al. (2011)に関しては、ポジションの逆説というのは非常に興味深い結果であると考えつつ、一方で分析結果と考察には多少の論理の飛躍があるとの意見がありました。すなわち、分析結果では商品の質の影響力(係数)よりポジションの質の影響力が大きく出ていたのにも関わらず、結局質が大事なのであると主張をしている点が少し強引に感じ取れた、ということです。

次回の論文について

今回、Web広告の先駆けとなったVarian(2007)と、比較的新しい研究であるJerah et al. (2011)をレビューしましたが、顧客接点は多様化しているので分析しようとすることには現実に沿っていないのではないかという意見があり、そのためオフラインも考慮する方にサーベイを進めていくことにしました。

そこで、次はオンラインとオフライン両方を考慮した研究として Joo et al. (2013)をサーベイしてく予定です。

参考文献

Jerah, K., Ma, L., Park, Y. H., and Srinivasan, K. (2011), “A Position Paradox” in Sponsored Search Auctions.” Marketing Science, Vol.30, No.4, pp.612-627.
Joo, M., Wilbur, K. C., Cowgill. B., and Zhu, Y. (2013), “Television Advertising and Online Search.” Management Science, Vol.60, No.1, pp.56-73.
Varian, H. R. (2007), “Position auctions.” International Journal of Industrial Organization, Vol25, No.6, pp.1163–1178.

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