広告を科学する(2)

音楽のダウンロードに見る消費者と広告主の相互関係

広告の購買意欲に関する研究

現在、広告業界の発展は目覚ましいものがあります。ITの進化を背景に、さまざまな広告手法が生まれました。また、新技術の活用方法や成功事例も常にアップデートされ、マーケッターを中心に、最新の情報が数多く発信されています。

しかし、「そもそも広告はどのようなメカニズムで効果を発揮するのか?」という議論は、あまり一般的ではありません。特に、事象・業界を科学する上で重要な担い手であるアカデミシャンの言葉は、限られた層にしか届いていないのが現状です。

そこで、各広告手法の専門情報だけではなく、マーケティング領域における学術的な研究を紐解き、ビジネスに活かせるよう、適切な広告施策の判断基盤やデータ分析の具体的な活用事例を提供していきたいと考えております。

今回は、前回の広告系サーベイブログで紹介したGhose and Yang(2010)を引用したYao,Mela(2011)とGoldfarb,Tucker(2011) をご紹介します。

広告が消費者と広告主にもたらす効果の検証

Yao,Mela(2011)は、広告が消費者の効用(すなわち個々人の満足度)、および広告主(企業)の利潤に影響を与え、消費者と広告主の相互関係にどのような影響を与えるのかを理論的および統計的に分析しています。

分析に使用しているデータは、Music management softwareでのサーチで、音楽をダウンロードするか否かを指標としたものです。ここでは、(経済学の基本的な概念である)効用に基づいたミクロレベルなモデルとなっており、音楽を頻繁にダウンロードする消費者と、そうではない消費者にセグメント分けをした上でモデルを形成しています。

主な分析結果

本研究から得られる主な分析結果として、

  1. 広告主にとって、スポンサー先にクリックするタイプの広告がもたらす価値(すなわち価格のマークアップ)は27セントである。
  2. 音楽を頻繁にダウンロードする消費者にとって、専門家などのランキングよりもスポンサーの広告リンクにより重きを置いて見る。
  3. 音楽を頻繁にダウンロードしない消費者にとって、専門家などのランキングを参考にする。
    という3点を明らかしています。

同時に、本研究ではシミュレーション分析も行っており、そこから

  1. サーチエンジンは個々の商品などの情報を収集しやすくすることで、広告主の収入を11%、消費者の満足度を2.9%高める。
  2. オークション理論と整合的である(すなわち、ファーストプライスオークション* からセカンドプライスオークションへの変更により、広告主の収入が増加しているという結果になっている)。
  3. 消費者のサーチツールはプラットフォームの売上を3.7%、消費者余剰を5.6%増加させるが、広告を見る機会が少なくなることで広告主の利益を4.1%減少する。
    という結果が得られました。

オンライン広告の効率性:どのような広告が購買意欲を促進するか

Goldfarb,Tucker(2011) は、オンライン広告の効率性についての実証分析を行っています。この研究では、著者が様々なウェブサイトのウェブ広告キャンペーンのデータを収集し分析しています(キャンペーン数2,892、サンプル数2,464,841)。色々なジャンルのデータを使用することによって、より一般的なオンライン広告の効果測定を可能としています。

分析手法を見ていくと、treatment group と control group を使用した difference-in-difference 法を使用しています。ここでは、treatment groupを広告を見た人、control groupを広告を見ていない人と定義し分析しています。また、頑健性のチェックも行っており、結果に頑健性があることが確かめられています。

主な分析結果

本研究から得られる主な分析結果として、検索ワードに関連する広告を出すこと(“Contextually Targeted”と定義)と広告の目立ち度を増すこと(“High Visibility”と定義、ポップアップなどが該当)は、それぞれ単独で用いる事で購買意欲を増やす効果があるが、両方の組み合わせ、すなわち“Contextually Targeted”と“High Visibility”を同時に施策として用いることは非効率である事を明らかにしています。

しかしながら、本研究では、何故、“Contextually Targeted”と“High Visibility”の組み合わせによってネガティブな効果が表れるかは明らかにされていません。また、この二つの施策の組み合わせは、プライバシーに関わる事に関しては特に敏感に反応することが明らかにされました。

以上の分析結果から、①これらの結果はAdSenseなどのプロダクトの今後の成功に重要な示唆を与える②政府の政策へのインプリケーションを示している、すなわち、政府が個々人のプライバシーのためにブラウザ上での顧客の行動データの規制をすると、広告がより拡散され消費者にとって不快になるという潜在的なトレードオフに直面しているということを結論づけています。

今後の研究方針

今回は、前回紹介したGhose and Yang(2010)を引用した二つの論文を見る事によって、その後どのような研究が進んだのかについてレビューしました。次回は、引き続き最新の論文の動向を見るべく、今回紹介したYao,Mela(2011)を引用しているJerah, et al.(2011)をサーベイします。

一方で、対照的に時代を遡ってGhose and Yang(2010)が引用しており、Varian(2007)という、広告研究の中でもとりわけベンチマークとなっているVarian(2007)を参照します。現在の広告研究につながるルーツを探るとともに、今後の広告研究の行方を占う重要な情報が隠されている可能性があるため、その点を意識してサーベイする予定です。

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ファーストプライスオークションとは、一番高値で付けた人が、その値段で競り落とすことができるオークションです。しかしながら、それだと躊躇して高値がつきにくいことが知られています。そこで、セカンドプライスオークションと呼ばれる、一番高い値段で付けた人が、二番目に高い値段で競り落とせるシステムを導入する事によって、ファーストプライスで高値がつきにくいという欠点を克服する事ができると考えられています。オークションに対する人々の経済行動を分かりやすく紹介している書籍として、坂井豊貴(2013)『マーケットデザイン:最先端の実用的な経済学』筑摩書房があります。

参考文献

Goldfarb, A., and Tucker, C. (2011), “Online Display Advertising : Targeting and Obtrusiveness.” Marketing Science, Vol. 30, No. 3, pp. 389-404.
Ghose, A., and Yang, S. (2009), ‘‘An Empirical Analysis of Search Engine Advertising: Sponsored Search in Electronic Markets,’’ Management Science, Vol.55, No.10, pp.1605-1622.
Jerah, K., Ma, L., Park, Y. H., and Srinivasan, K. (2011), “A Position Paradox” in Sponsored Search Auctions.” Marketing Science, Vol.30, No.4, pp.612-627.
Varian, H. R. (2007), “Position auctions.” International Journal of Industrial Organization, Vol25, No.6, pp.1163–1178.

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